天使の誘惑

| |

第7話

 ことのほかゆっくりと着替えを済まし、ピットに戻ってくる。
 ピットの中に居るはずのスタッフも、早々に引き上げ、シャッターの閉まったその中で綾部を待っていたのは、政美だけだった。
「お疲れ様、綾部君」
「⋯⋯⋯」
 にっこりと笑って出迎えた政美の微笑みが、先程見た岡部と一緒に笑っている様子とオーバーラップした。
「どうしたの? 疲れた? それとも⋯⋯」
 話しの途中で、政美はいきなり綾部の腕の中に取り込まれた。
「どうし⋯た⋯⋯⋯」
 驚いてはいたが、綾部の何時もの冗談かと思い、笑いながら顔を上げた政美が見たものは、そんな事など微塵も見せないほどきつく、激しい色をした瞳だった。
 ぞくりと背筋を這い上がる恐怖が、政美を捕らえた。
 身動きも出来ないほど、強く抱き締められ、口唇を奪われる。
「いや⋯⋯⋯だ⋯⋯」
 顔を左右に振って綾部の口付けから逃れようとするが、固定された顎は微動だにしなかった。
「菅野さん!」
「やめて⋯! 綾部君」
 口付けを解く気配も感じられないままに、綾部の腕が政美の上着の裾をズボンから抜き出しにかかる。
 上着の裾から思いも寄らぬほど熱い綾部の腕が、脇腹に添って政美の身体を撫ぜ上げる。そのまま徐々に上に上がっていき、器用な指先が政美の胸の飾りを摘み上げた。
「ひっ⋯⋯」
 突然の刺激に政美の咽喉が鳴り、あまりの事に身体が硬直する。
 そんな様子も今の綾部には見えなかった。
 シャツの中で不自由そう政美の胸の朱宝に戯れるように動く腕が、じれたようにもう一方の腕をよび、ボタンをすべて引きちぎりながら、剥ぎ取っていく。
 勢い余ってバランスを崩し、床に倒れこんだ。
 コンクリートの床が政美の身体にかなりのダメージを与えたことは言うまでもない。
そのまま押さえこむようにして、自由を奪い綾部はもう一度、政美の口唇を奪った。
 なにかに付き動かされるように夢中で政美の舌を追う。
逃げようとしたところを追い掛け、絡み取り吸い上げる。
 何度かそうしているうちに政美の口唇はより赤みを増し、綾部の欲望を募らせた。
後髪を引かれる思いで口唇を離すと、そのまま顎のラインをたどり首筋を通り、やがて胸の飾りへと辿り着いた。
 一方を吸い上げるように、時には舌で舐め上げるように、そしてもう一方はと言えば先程から戯れるように爪を立てたり、摘み上げていたおかげで、白い肌の強烈なアクセントに成り代わっていた。
「や⋯だっ⋯⋯あ⋯⋯べく⋯」
 政美の腕は、胸に与えられている刺激を何とかそこから引き離そうとする。
綾部の髪に指を絡め、力を込めるが引っ張る力を強める度に、綾部の政美に対する行為がより激しくなりどうすることも出来なくなってしまった。
「菅野さん」
 自分の名前が遠くで呼ばれたような気がしたと同時に、組み敷かれている下半身の方でカチャとベルトのバックルを外す音がした。それに続いてファスナーの微かな音が聞こえ、政美のズボンが綾部によって剥ぎ取られてしまった。
 コンクリートの床に直接振れた肌が、不平を言うように鳥肌をたてる。
「や⋯⋯め⋯」
 床の冷たさが政美から体温を奪い、抵抗する度にすれる肌には、すり傷が増え、白い肌に血がにじむ。
 すっかりとぬがされた白い肌を辿り、綾部の口唇が政美の腰骨を吸い上げる。
薄らと紅くなった肌に、時折歯を立てながら、徐々に中心に向かっていく。
 抵抗もろくに出来ない政美の中心に、綾部は顔を埋め、愕きの為に萎えている政美を直接、口に含んだ。
「あ⋯ああっ!」
今までに経験したことの無い感覚に翻弄され、政美の口から嬌声が上がった。
 生暖かい口内に含まれ、翻弄される自分が判っていても、その行為から逃げようと身体をよじる度に、綾部は的確に政美のポイントを押さえるように舌を動かした。」
 所詮、同じ性を持つ者同志⋯自分の感じる場所を攻めれば、否応なく感じる⋯⋯綾部には判っていた。
 無理矢理開かせた足を綾部は、自分の肩に載せるようにしながら動けないように固定する。
「菅野さん⋯力抜いてて」
 その言葉が政美の耳に届くか届かないかのうちに、政美の隠れた園に情熱のたぎった綾部の楔が押し当てられた。
「ひっ!」
 ビリビリと身体中を駆けめぐる感覚が、痛覚であることに気付いたのは、政美の中に綾部の熱い情熱がすべて入り込んだ時だった。
 圧迫され、息をすることもままならない状態で、ズクリと綾部の熱が動いた。
「やぁ⋯⋯ああ⋯⋯」
 灼熱の熱棒を突っ込まれたような激しさに、政美の意識は宙を舞った。
 意識を飛ばしては、引き戻される。
そんな繰返しが何度か過ぎ去った時、政美の身体の奥で弾け飛ぶような感覚が起った。
そのまま動くことなく綾部は政美の胸に倒れこんできながら、何事か政美の耳元で囁いた。 綾部の絶頂と共に意識を飛ばしてしまった政美の中で、動くこと無くじっとしていた楔が、無意識にビクビクと痙攣する政美の身体の奥でゆっくりと立ち上がり始めた。
 一度⋯激しい情熱を本能のまま政美にぶつけた綾部は、辛そうな表情のまま意識を飛ばした政美の眉間に優しく口付けながらゆっくりと腰を動かし始めた。
 だんだんと意識を覚醒し始めた政美は、何度も何度も瞬きをしながら焦点を合わせようとする。
 身体の中に感じる異物感が、唐突に覚醒を早めた。
自分の身体の上に伸し掛かっている綾部の重さに気付き、力の入らない腕を持ち上げて綾部の肩に掛け、押し戻そうとする。
 弱々しい抵抗をものともせずに、綾部の腕は政美の腰骨のラインから流れるように政美自身へと絡みついていった。
「あ⋯⋯っ⋯」
政美の口から洩れたのは、自分でも信じられない程の高いの悲鳴だった。
 女の様に身体をなぶり尽くされる。
その恐怖がまた政美の中に這い上がってくる。
「菅野さん⋯」
 綾部の声を聞いた途端、政美の身体は硬直した。
 無理矢理開かされた身体が、意志とは関係無く綾部を受け入れている事にショックを隠せなかった。
 人形のように硬直した事で、綾部自身を身体の奥で締め付ける結果となり、政美は自分自身を傷つけていく。
 綾部は彼の中で二度目の絶頂を感じるが、腕の中の政美は、激しい動きに付いていけず、暗黒の闇の中に意識を飛ばしていた。
| |
Copyright (c) 2013 Akira Kousaka All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-